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Smoke and Fools

We want to climb the highest place... 『S.N.F.』の輝かしくも、まぬけな記録と、徒然記。

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第一次奥鬼怒遠征 その14

メンバー全員、一斉に装備品を担ぎ上げた。往路とは違って、食料品が無くなったのでかなり楽に感じる。体には疲れが残っていたのだが、深緑の森の中を吹き抜ける川からの風が心地よく、彼らをやさしく後押しする。前半戦あれだけヘタレっぷりを見せていた江藤(利)も、意気揚々と先頭を歩く。井川を筆頭に他のメンバーの足取りも軽く、行程はスイスイと消化されていくかのように見えた。

だが、その雰囲気に乗り切れない者がいた。斉藤は、痛めた右膝の状態が悪化し、まともに歩くことが出来ない。平地を歩くのはまだましだったが、道が下りに差し掛かると、着地の瞬間に激痛に見舞われる。膝を曲げないよう、また体重をかけないようにと、体を半身に反らしながらストックを補助にして坂道を下る。見かねた井川が、

「おい斉藤、大丈夫か。どうしたんだ?」

と声を掛ける。斉藤はことの次第を説明し、痛みはするが何とか後ろから着いていけるから大丈夫だと返答する。この膝の痛みはその後も回復することはなく、ひどい時には会社の階段を昇り降りすることにも不自由する有様であった。斉藤の心中は、自分自身の不甲斐無さに対する怒りと、他のメンバーを苦しい目に遭わせて愉しむという歪んだ欲望を満たすことが出来ないもどかしさが入り混じって煮えくり返っていた。

「なんだお前ら、だらしねえな!グズグズ言ってねえでサッサと歩け!!」

という風に他のメンバーを罵倒する為に、自分の肉体を鍛え、人より重い荷物を担いでいた斉藤であったが、不意に生じた怪我によってすっかり立場が逆転してしまった。

「くっそー、動け右足!」

声に出しながら必死に歩き続ける斉藤を、江藤(隆)が励ましながら追従する。この時から江藤(隆)は最後尾を歩くことが多くなった。自由気ままなパーティーではあったが、隊列があまりにも長くなってしまうと収集がつかなくなる。江藤(隆)は、時に自分のデジカメで写真を撮りながら、ペースが落ちて後退してきたメンバーに声を掛けたり、替わりに荷物を持ったりしてチームの底を支える。常に先頭に立って道を切り開く井川や、中段に位置して前後のバランスを見ながら進路を指示する斉藤にとって、江藤(隆)が後方にいることが大きな安心感を生み出していた。

途中、休憩を取った時のこと。井川が愛用していたサングラスを崖の下に落としてしまった。熊笹に覆われた斜面を勢い良く転がり落ちていくサングラス。かなり下のほうで動きが止まったのが見えた井川は、突如崖を降りようと身を乗り出した。

「あっ、くそっ!あのサングラス高かったんだよ!ちょっと取ってくるから、お前ら待ってろ」

他のメンバーは井川が言ったことの意味を即座には理解できなかったが、ザックを下ろして崖へ一歩踏み出した彼を見て口々に自制を促した。

「ちょっと浩平さん!危ないですって!落ちたところは見えてますから、まわり道しましょうよ!」
「そうですよ!こんなところで落ちて怪我したら大変ですよ!何だったら、ザイルでラペリングしますか?」

さすがにここを降るのは危ないなと自覚した井川は、山道を走って引き返した。斜面が緩やかになったところで道から飛び込み、熊笹の薮の中からサングラスを見つけ出した後、再び山道を走って戻ってきた。何も走らなくったって、誰もサングラスを取ったりしないよと思いながら、この期に及んでまだ走る余力がある井川の体力に賞賛の声を上げる一行であった。

昨日は3時間以上掛かったルートの復路は、2時間程で終焉を迎えようとしていた。最後の下り階段に差し掛かると、薄暗い森の先に吊り橋の黒い鉄骨が陽光を浴びて浮かび上がっているのが見えた。

「あっ、橋だ!橋が見えたぞ!ゴールだー!!」
「マジで?やった!コーラが飲める!」
「ひゃっほー!!」

誰彼ともなく走り出し、最後の行程を一気に突き進んだ。吊り橋に辿り着くや否や、背負っていたザックを道端に投げ捨ててその場にヘタリこむ。息を切らしながら、お互いの顔を眺めて歓喜の声を上げる。もうこれ以上この荷物を背負って歩かなくてもいいんだという開放感が一同を包み込み、自然と顔が緩んだ。冷たい炭酸飲料の名前をうわ言のように繰り返しながら江藤(利)が橋の上に寝そべった。竹上と薮内が並んで橋の欄干を背にしてしゃがみ込む。井川と江藤(隆)のスポーツマン二人もさすがにしばらく座り込んだ。今田は帰りの道中で壊れてしまった靴を見せびらかして笑いを誘う。斉藤は膝の痛みから座ることが出来なかったので、荷物を下ろして欄干に寄りかかった。

一つの物事を達成したという、えも言われぬ充足感。その究極形が今回の温泉行にはあった。幾度かのアクシデントや珍事を乗り越えて全員(?)が結束した姿は、薄汚れた大人たちをも輝かせてしまった。今回の山行きによって多量に分泌された脳内麻薬にすっかり冒されてしまった彼らは、その呪縛から逃れることが出来なくなり、その後度々山へ繰り出しては醜態を曝していくのであった。
「ああしんど」「つかれましたねえ」という声が聞こえる。コーラと叫び、のたうつ。











いやー、楽しかったっすよ!この靴はその後丁重に葬られました。












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第一次奥鬼怒遠征 その13

江藤(利)は、

「俺もうあの山道を戻るのイヤだから、この川を下って帰りますよ」

と言い放った。「はぁ?」である。

「ここほど大きいのは無いだろうけど、小さな滝が絶対ありますよ!この先がどんな流れなのかも分からないし、絶対止めたほうがいいですよ!」

斉藤が止めに入ったが、江藤(利)はどうしても元来た道を戻るのはイヤだと言う。

「ふーん、そうか。じゃあ俺らはもう戻るぞ」

滝壺から下流を眺める。井川が、それじゃあ好きにしろといった感じで突き放す。竹上、薮内、江藤(隆)が「危ないですよ」と説得を試みるも江藤(利)の決意は固い。しかたなく、彼の意思を尊重し別行動を取ることとなった。だが彼の行く道には、どんな危険が待ち受けているか分からない。早瀬に足を取られたり、深みにはまったり、滝に飲まれたりすれば命を落としかねない。そういった危険性は充分説明したのだが、それでも行くという彼を止めない他のメンバー、特に隊長と副隊長には大変問題がある。人の命が今失われるかもしれないという時に、強引にでもそのリスクを回避するようパーティーを誘導するのが正しいリーダーのあり方であろう。牽引力はあるものの、基本的に他人に興味が無いという指導者に率いられたチームの末路というものは想像に難くない。

ともあれ、江藤(利)は勢い良く川の中に飛び込んで野営地へ向けて下り始めた。その後姿が見えなくなるまで見送った後で、井川隊長以下5名は正しい帰路についた。広河原から噴泉塔までの道中、幾度か川を渡るポイントがある。もしかしたらその辺りで江藤(利)と合流出来るかもしれない。そう思いながら一行は帰路を急ぐ。だが、行けども行けども江藤(利)とは出くわさない。痕跡すら見つけることが出来ないまま、いよいよ野営地が眼下に迫る地点まで戻ってきた。

一方、ずっと野営地で留守を預かってきた今田は、突如川の上流から現れた深緑色の物体に慌てふためく。

「くっ、熊!?河童?」

頭から水を滴らせてのそのそ近づいてくるその異形の物に対して、警戒心全開。愛用の鉈を鞘から抜き放つ。全身に緊張が走り、天敵に睨まれた小動物の如く、体中の筋肉が即応体制に入る。

「よりにもよって自分一人の時にこんな目に遭うなんて。こんなことなら、みんなと一緒に噴泉塔に行けばよかったかな。それより、戦うか?逃げるか…」

人間としてではなく、動物としての生存本能に最後の決断を委ね、いよいよその裁可が下ろうというその時、やけに聞きなれた、拍子抜けに緊張感の無い声が今田の耳に届いた。

「おーい、今田さーん!ただいまー!!」

完全に本能モードに入っていた今田は、その状況をすぐに理解することが出来なかったが、ちょっと間を置いてようやくその声が江藤(利)のものであることに気がついた。

「利、何やってんだよ!お前、この川を下ってきたのか?他の連中は?」

不意に緊張感から解き放たれ、安堵の表情を浮かべながらも、あまりにも江藤(利)の惨めな姿に笑いが止まらない今田。

「俺、この山道を引き返すのがどうしてもイヤだったんで、川を下ってきたんですよ。他のみんなはまだ帰ってないんですね?」
「おお、まだ誰も帰ってきてないぞ。それにしても川を下ってくるって、いったいどんなトンデモ馬鹿なんだよ。下手したら死ぬぞ!」
「いやー、ヨシ君とかにも止められたんですけどね。滝があるから危ないって。実際、みんなと別れてすぐに滝と出くわして、引き返そうかと迷ったんです。だけど、覚悟を決めて飛び込みましたよ!そしたら頭まですっぽり滝壺の底まで潜っちゃって、ポケットの中身がみんな飛び出しちゃいましたよ!タバコもぐちゃぐちゃだし、ライターも火が付かなくなっちゃって!」
「利、タバコやライターどころじゃないだろ。お前、よく無事だったな!滝壺って底で渦を巻くから、運が悪いとそのまま上がって来れなくなるんだぞ!」
「ええっ!そうなんですか!!そういうこと知ってたら、俺、滝なんかに飛び込まなかったですよ!」

「山川の末に流るる橡穀も、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」とはいうものの、二度と浮かばぬ瀬も世の中には存在する。装備品を失った以外に怪我も無く帰還した江藤(利)は、彼の人生の運をここでかなり消費してしまったに違いない。

野営地を眼下に眺めながら、江藤(利)の安否が気になっていた一行の目に飛び込んできたのは、河原で今田と談笑している彼の姿であった。すぐさま野営地へと駆け下りると、江藤(利)の無事を労い、ことの顛末を聞く。だから言わんこっちゃない…といった結果であったが、何はともあれ無事で何よりである。

最後に一風呂浴びて噴泉塔ツアーの疲れを癒したところで撤収準備を開始。テントをたたみ、かまどを崩し、ゴミを拾って、各自のザックを纏め上げる。30分程して野営地は元通りになった。出発前に記念撮影をしていよいよ帰路につく。
本当にいい湯でした。野営地を高台から望む。











撤収準備の最中、裸でうろつく。撤収完了!












第一次奥鬼怒遠征 その12

静かに朝が訪れ、広河原はやさしい陽光に包まれた。前日一人で夜遅くまでジャックダニエルを痛飲した斉藤は、上昇していくテント内の温度と激しい喉の渇きに悶えながら起き出した。ザックから乱暴にミネラルウオーターを取り出すと、アルコールですっかり干上がった喉の奥へ勢いよく流し込んだ。人心地ついてテント内を見回すと、すでに竹上は起き出しているようだった。テントのジッパーを下ろし、かまどがある方を見やると、すでに他のメンバーが揃っており、火を起こしているようだった。

「う※☆△◎ーす…」

と、何やら呻きながら斉藤が近寄る。どうやら、挨拶をしているようだ。

「あ、ヨシさん、おはようございます」

江藤(隆)が答える。メンバー最年少の彼は、朝からマメに働いている。彼は今、焚きつけから薪に移った火に、新聞紙を団扇代わりにして風を送っているところだった。
秘密の缶詰。絶妙な味付けで極旨。食事の準備は既に整っており、ご飯と缶詰が平らな石の上に並べられていた。

「うーん。このしょうゆ味いいね。しみじみと旨い」
「うわさ通り、沢庵旨い。ピリ辛がメシにあうよ」

決して豪華ではないが、こんな食事が毎日食べられるなら、○○○(全部伏せたらわからない?お許し下さい)で汗水流して働くのも悪くは無いと思わせる、日本人のこのみに則した庶民の味が美味しく缶詰に封入されているのである。同じ商品が店頭に並んだら売れるんじゃないかとも思ったが、製造コストは結構かかっているかもしれない。筑前煮の缶詰が一個500円もしたら、いくら美味しくても誰も買わないだろう。

川の水が冷たくないので助かります。朝食をサクっと済ませ、コーヒーで一服。鍋や飯盒を川で洗った後、本日の行動について話し合う。当初の予定では、天然記念物「湯沢噴泉塔」まで足を伸ばすことになっていた。ここ広河原からは、およそ1.5km程の距離である。ただし昨日広河原に到着した際には、メンバーの多くからこれ以上の前進は止めようという声が上がっていた。重装備を背負っての山歩きに不慣れなメンバーは、帰路のことを考えて慎重になるのは当然で、何事においてもそうだが、特に登山で無理は禁物である。従って、広河原温泉到着で良しとするのは正しい判断と言えよう。そしてその時は、隊長である井川もこの意見に同調していた。ところがである。人間と言うものは、時間帯によってメンタリティが変化する生き物のようで、前日の夜は気弱だったのに翌朝には強気に変わっていたりする。話し合いが始まると、噴泉塔まで行こうという意見が主流になっており、結局、参加の是非は任意とするものの決行されることになった。今田は疲労の蓄積から参加を回避。前日の行程で右膝を痛めてしまった斉藤は最後まで悩んだものの参加することにした。その他のメンバーは全員参加。それぞれ必要最低限の荷物を持って天然記念物見学ツアーに出発。今田は他のメンバーの後姿を見送り、一人野営地で留守番することになった。

大きな枯れ木のわきを流れる温泉。湯沢川をさらに遡りながら、道は森の中を這うように続いていく。所々に温泉が湧き出していて、もうもうと煙が立ち昇っていた。陽が高くなるにつれて気温が上昇してきたのだが、この周囲はさらに熱気が立ち込めていた。温泉の成分によって黒く変色した岩の周りを湯の花が白く縁取ったコントラストが、太陽の光を浴びて際立って眩しい。場所によっては熱湯の水溜りに木製の歩道が通してある。表面に温泉成分が付着してぬるぬるっとしているその上を渡るときには少なからず緊張を強いられる。滑って落ちたら火傷必至であろう。こんなところで茹で上がってしまうのは御免なので、一行は湯煙の硫黄臭にむせびながらも慎重に進んで行ったのである。

足元を流れる湯水が背後の清流に流れ込む。斉藤は右膝を庇いながら何とか歩き続けていた。昨日の道中、長めの休憩で冷えた体に熱が入る前のことである。階段にしては高すぎるステップを乗り越えようとした際、何故か手を使わず右足だけで踏み出してしまった。背中の装備品とウエストバッグの撮影機材に自身の体重を合わせて90㎏近い重量が、大してトレーニングをしていない右膝に集中した瞬間“ピリッ”という感触が走った。「ん、やばい!靭帯をやった?」と斉藤が呟くや否や、すぐさま鋭い痛みに襲われる。だが痛み自体はそれ以降顕著には現れず、右膝がちょっと引っかかるような感覚はあるものの歩けないということはなかった。念のため温泉でマッサージをした後は、何事も無かったかのように痛みも引いていた。ところが翌朝起きてみるとどうも様子が違う。右膝が痛い。睡眠によって緊張状態が途切れた体は、素直に故障箇所の症状を表現していた。「これはマズイなぁ」と思いながらも噴泉塔ツアーへの参加を決めてしまった自分に、遅まきながら疑問を抱き始めた斉藤であった。

一時間ほど進んだ頃、残り300mを示す看板を通過した。温泉の臭気が一際強く立ち込める。程なくして湯沢噴泉塔の看板が見えた。長い下り階段を過ぎると、眼前には落差20m程の滝が何段にも層を作って現れた。滝壺は、上流からの冷水と温泉とが混ざり合い、白い湯煙をたなびかせている。周囲には湯の花に彩られた石に混じって獣の骨が散らばっていた。何だか地獄谷を思わせる様相だが、悲観的な感じはしない。滝から右に数メートル目をやると岩からにょきっと突き出した塊が見える。ちょうど鍾乳石をひっくり返したようにして、空をめがけて上へと伸びているその塊が噴泉塔であった。

「○んこだ!これち○こみたくねぇ!!」

天然記念物に対して極めて不適当な発言を浴びせる一行。噴泉塔はそれなりにインパクトはあるものの、滝と温泉が作り出す景観にすぐに人気を奪われてしまった。ちん○に飽きた一行は、滝から照射されるマイナスイオンを体いっぱいに浴びながら、皆それぞれに体を伸ばす。摂氏90℃以上の温泉が流れ込んでいるとはいえ、上流からの水は冷たく、水量も豊かなため、滝壺にどっぷり浸かるという気にはなれない温度だった。周囲には直径60cm位の湯溜まりがあって、一人用の湯船として入れなくもなかったし、実際入浴している写真も見ていたのだが、誰も試そうとはしなかった。

しばらくの休憩後、さて野営地へ引き返そうかといったその時、突如江藤(利)の奇行が始まった。
滝は画面左からさらに落ち込む。

ここまで大きくなるのには相当時間が掛かります。










マイナスイオン照射!滝壺でコマネチ。











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男性
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1974/07/02
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自己紹介:
「遊ぶのに忙しくって、
        仕事をしている暇が無い」

 いつかそんなことを言ってみたい…

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