計画立案、手配、会計は、俺が担当している。一度全員でルート設定の会議をしたあと、現地への交通費(燃料、輸送、高速等の料金)、食費、燃費=酒代などを計算する。それで導き出された金額が、今回は11万円である。八戸まで高速道路を使用し、そこから苫小牧向けのフェリーで北海道上陸。内陸部をぐるっと回って、釧路から東京港までフェリーで帰る。その他の経費を加味すれば、そのくらいの金額はどうしても必要だった。
出発日ぎりぎりまでメンバー全員、アルバイトに励んだ。パン工場で働くもの、ガソリンスタンドで働くもの、その他コンビニ、公共施設、ギャンブル(ダメじゃん…)などに勤しみ、旅費を稼ぐ。
こうして、何とか旅費は用意できた。そして、前日はお楽しみの買出しである。新聞の折込広告をチェックして、一番安いお店へと雪崩れ込む。お目当てはもちろん、酒、酒、酒であった。「やっぱりビールは、スーパードライだろ!」とか、「この日本酒、旨そうじゃね?」とか、思い思いに盛り上がっていた(まあ、特定の二人だけという見方もできる)。全日程の献立を考えていた俺は、食料品にも目を配る。今回は長期戦なので、日持ちの良いものを中心に選択。生ものは現地調達するつもりだ。
結果として買ったものは、日本酒一升、ウイスキー一瓶、ビール(350ml)一ケース、酎ハイ(350ml)一ケース、ウーロン茶など数本、冷凍肉を数キロ、じゃがいも、たまねぎ、人参、その他調味料など。食料品はともかく、酒類は明らかに不足している。なにせ、呑み助の俺と鯨岡がいるのだ。
案の定、キャンプ二日目にして深刻な事態が発生してしまうのだが、その話は次(次?)回にでも。
一部の方々を、ブッチギリで置いてきぼりの新展開。あの話は、面白すぎるので、まだまだ出しません。
20代前半、俺はプラプラとしていた。バイト、釣り、麻雀、夜のドライブ…と、まるっきりダメな感じ。それでも、かなり真剣に取り組んでいたのがアウトドアライフ。それも、かなりストイックに。
電源付きテントサイト?ふざけんなっ
キャンプ場??一昨日きやがれっ!!!
何も無いのを楽しむ心意気なくして、外に出るなかれ。っつーか、野外に出てまで日常を求めるな!!
そんなこんなで、その年の遠征先は北海道に決まった。「そんなこんな」は、大抵、俺の独断と一存である。プロペラの飛行機に乗りたいという理由で三宅島に行ったり、釣り&キャンプ「=食材は現地調達」という理由で、長野の山奥へ繰り出したり。
そして、その「そんなこんな」は、異論を挟む余地がない。いつでも決定事項である。メンバーには、日程調整以外の質問はしない。
メンバーの彼らも慣れたもので、ダメな日にちと、予算はいくら?くらいしか伝えてこない。計画全般を担っている俺は、そこから日程、ルート、予算を組んで、全員へ伝達するのである。今回の予算は、11万円程。一週間掛けて、北海道を一周する計画である。期日は8月の半ばからと決めた。
伝達したのは、6月の後半。各自、アルバイトに励みだす。
登山道と下山道は別々になっている。その下山道は、砂礫の地面をブルドーザーで踏み固めたような感じで、遥か下方へつづら折れとなっている。道の中央は固くて歩きやすいが、両端は砂礫が柔らかく、深くて、足が沈んでいく。
すでに大勢が下山の途についていて、人の列が道に沿って、大蛇のようにうねっていた。そんな中を、快調に進んでいた一行だが、ここで一つの問題が発生した。八合目辺りで、とある建物に大行列が出来ている。トイレであった。思えば、昨夜9時から登り始めて、かれこれ10時間以上経過している。その間、用を足していなかったのであるから、その行列を作っている人々の気持ちは良くわかる。というか、割り込んででも入りたい。
「すごい行列だな。しかも、ここ、有料だ」
「どうするか…確か、七合目にもトイレがあったぞ」
「よし!じゃあ、走るか!!」
かくして、七合目まで走って下ることになった。前述のとおり、道の中央は歩きやすいため、人がいっぱいである。従って、比較的人の少ない、道の端の、砂礫が深く積もっているところを、足をわざとすべらせながら進んでいく。こういう土壌では、グリップを効かせるのが難しいので、滑り落ちる方が楽である。足腰への負担も軽減出来るというオマケ付きだ。
七合目に到着すると、またもや大行列。
「ここもか!しかも有料…」
「うーむ。有料にする事情はわかるが、俺は金を払いたくないぞ」
「同感だ。でも、無料のトイレって?」
「五合目の駐車場脇にあったぞ」
「結局、そこしかないか」
「ならば、走るぞ!!」
標高が高く、微生物が生息できない極地においては、糞尿が生分解されることなく、その姿を留め続ける。そのまま放置する訳にはいかないので、汲み取って麓まで持ち運んでいるのだ。その為の費用を、使用料という形で利用者から徴収している。糞尿を運んでいる人たちには、本当に頭が下がる思いである。だが、自然の摂理たる生理現象にお金を払うということに抵抗感を感じる彼らは、五合目まで一気に下ることを決断した。自身のリミットは近い。一刻の猶予もないという状況で、自然とペースが上がっていく。
ザァーッ、ザァーッと砂礫の上を滑るように進む彼ら。鯨岡は、スキップを踏みながら進んでいく。そういえば、彼は高校生時分、持久走(10km)でもスキップしていた。きっと、単に走るよりもスキップの方が、鯨岡にとっては速く移動することが出来るのであろう。見る間に、他の二人を突き放していく。
「ねえ、あの人。スキップしながら下ってるよ」
「新しい山の下り方だね」
周囲からは、そんな声が聞こえた。確かにそれは、新しい下山方法が誕生した瞬間だった。
ひたすら走り続けて、六合目の施設を通過した。道の傾斜がなだらかになり、時折平坦になる。さすがに疲労の色は隠せないが、やんごとなき事情が彼らを走り続けさせた。ゴール=公衆トイレは目前である。最後の力を振り絞って、ようやく五合目の駐車場まで辿り着いた。下山を開始してから2時間と少し。本日一番の下山タイムであろう。
大人としての尊厳を保てた彼らは、行程の無事を喜び合った。夜半から早朝にかけて崩れていた山の天候も、今ではすっかり回復し、太陽が一行を祝福するかのように陽光を降り注いでいた。いくつか遣り残したことはあるものの、皆それぞれに満足しているようだった。