いつもの迷彩ズボンに、ロンTと愛用のキャップで身を包んだ竹上が自宅前で斉藤、江藤(隆)の到着を待っていた。彼の家は静かな住宅街の中にあるのだが、メインストリートからそこに至るまでにラブホテル街を抜けなければならない。彼の子供はまだ小さいからその建物が何であるか認識すらしていないだろう。しかしその煌びやかな建物のことについて、早晩質問されることになるはずである。その時どのように竹上が答えるのか興味深い。男女が交わって楽しむ場所だと、幼少時より英才性教育を授けるのであろうか。
「ちーっす」
と挨拶しながら、竹上はいそいそと装備品を江藤(隆)の車に積み込む。前日早番だった彼は、睡眠時間もバッチリで元気そうだった。方やギリギリまで仕事をしていた江藤(隆)と、たっぷり気を揉んでいた斉藤は既に疲労感を漂わせている。
「隆、俺運転しようか?」
「いえ、大丈夫っすよ!」
「やばかったら、いつでも交代するからな」
竹上は、先ほどの怒りのメールからは想像出来ない位ケロっとしている斉藤に安心し、江藤(隆)に気を配る。彼の外見はチャラい兄ちゃんといった感じなのではあるが、存外周囲に気を使う人物なのである。遠征の時は率先して車を出したり、水が嫌いなテラを抱えて川を渡ったり、誰も持ちたがらない鍋を運んだりと(まあ、隊長命令ではあったのだが)、ここぞという時のポイントゲッター的な役回りをこなしている。
江藤(隆)の車は竹上邸を出発するとすぐさま高速道路に入り、既に出発している江藤(利)の車と合流する為、集合地点である市川PAへと向った。斉藤は、こちらの班の状況を知らせる為、今田へメールを送る。
「こちらち○こ1。只今、佐倉インターを通過」
すると間髪入れず今田から
「こちら、ち○こ2。現在原木を通過。ちんコンディションは上々
」
という返事が届く。今田班は薮内を回収して順調に前進しているようだった。ところで今回、斉藤班のコールサインはち○こ1。一方今田班のコールサインはち○こ2。以降、終始このコールサインでお互いを呼び合うこととなる。どうも彼らが集合すると、徐々に会話が小学生化していく。そんなでっかい小学生6名と1匹は、2台の車に分乗して、夜の高速道路をひた走る。
午前3:30頃、斉藤班が市川PAへ到着すると、既に今田班が先着していた。江藤(利)がテラを車から降ろして散歩させていたので、一同その場へ集まる。それまで元気に走り回っていたテラは案の定、面々の顔を見るなり尻尾を丸めて怪訝な表情を見せた。
「おいご主人。またコイツらと一緒かよ。今度は何処に連れていくんだい?あまり疲れるのは勘弁して欲しいなあ」
物言えぬ彼ではあるが、表情や仕草で人間以上に良く語るのである。
「よお、テラ!久しぶりー!」
「よーし、よーし、よし!」
「なんだよ!尻尾なんか丸めるな!」
前述のテラの言葉を全く意に介さない一同は、「ここまで来たらもう引き返せないぞ。フフフ…」なんて表情が30%程入り混じった感じで彼を取り囲む。ますますテラが勢いを失ってしまった。そりゃこんな怪しげな半笑いのオッサン達に囲まれたら、どんなに人懐っこい犬だって警戒心を抱くだろう。しかし、彼もさすがに冒険犬の端くれである。メンバー全員の臭いを嗅ぎつつ顔を確認し終えると、いよいよ観念した様子で落ち着きを取り戻した。
「はあ、やっぱ山っすか…。それなら早いとこ行きまっしょい!」
今度は力強く、自分のお気に入りである江藤(利)の車の助手席へと駆け込んだ。行かなきゃならないことを理解すると、今度はさっさと済ませようという気になったようだ。その姿に急かされるように、それぞれの車に乗り込む一同。時刻は午前4:00。改めて大菩薩嶺へ向けて出発と相成った。
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