公共の電波を使って、朝から『ち○こ』を連呼するダメ大人達は中央道をひた走り、順調に大月JCTを通過。程なくして勝沼へ到着した。晩秋の凛とした朝の空気を切りきながら、2台の車は甲州市を北上していく。途中、曲がるところを間違えたりしたのだが、ただちに江藤(隆)の車に搭載されているカーナビ(CD ROM!)のせいにして、個人へ非難が集中するのを回避する。チームを円滑に運営するためにはスケープゴートが欠かせない。だが、たまにチーム内部で罵り合っても深刻な事態に発展したことがないので、仲が良いというか何も考えていないというか、Mっ気が多い集団なのかもしれない。
コンビニで食料を買い込んだ後、一行は青梅街道を走り抜けて大菩薩峠登山口へ到着した。のそのそと車から這い出てくる彼らとは違い、テラは車のドアが開いたとたんに勢い良く飛び出した。やはり今回も山に着くと元気になった。普段の散歩とは明らかに場所も雰囲気も違うという状況が、彼のテンションをいやがおうでも上げているようだ。駐車スペースの周りをせっせとパトロールし、異常の有無を確かめる。何箇所かにマーキングをして、テラは自らの版図を広げていた。
一行が準備をしている最中、ダメ大人筆頭格にして隊長代理の斉藤は景気付けと称して“燃料”補給。
「これがないと、やってらんねえ
」
なんて言いながら、ジャックダニエルを体内に注入する。それを見て今田は、
「でた!アルコール中毒!ああ、もう、その匂いだけで酔っ払いそうだよ」
と渋い顔をする。あまり酒を好まない今田は、斉藤が燃料補給をする度に嫌な顔をするのだが、そんなことはお構いなしだ。斉藤は、周囲に何かを言われて行動を改めるようなタマではない。
「ドラゴンブレス発射ーっ!」
と叫びながら大きく息を吐いて、辺りにアルコール臭を撒き散らす。「やれやれ」といった表情で見つめる面々。いつも通りの出発準備光景である。
バカ騒ぎも一段落し、ようやく出発する。当初の予想より気温は高め。そのせいか、紅葉も始まったばかりといった感じである。駐車場からしばらくは落葉広葉樹林の中を緩やかに登っていく。木々の間から垣間見える山肌が、朝日に照らされて赤銅色に輝いて見える。いく層にも重なった落ち葉の絨毯を踏みしめながら、徐々に高度を上げていく。テラはいきいきとして、先頭を歩く。他の登山者が居るところでは一応リードを着けるが、それ以外の時は概ね野放しである。それで何処かに行ってしまったり、道を踏み外してしまうようなことはない。それどころか以前道に迷った時には積極的にルートを探してくれたし、自分が不安になった時には、リードを着けてくれと飼い主である江藤(利)に訴える。今は、3ヶ月振りの登山を体全体で楽しみながら、前へ行ったり、江藤(利)の元へ戻ったりと動き回っている。
20分程歩いたところで、厚着をしていた者達が服を脱ぎたいと言いはじめたので小休止を取る。暑さ寒さは個人主観だし、どういう服装が良いとかのアドバイスは事前に一切しなかった。ただ、朝晩は気温が10℃を下回るとだけ伝えてある。全員その情報を汲み取って装備品を持参する。子供じゃないんだから、一から十まで指示はしない。チームのそういった方針が漸く浸透してきたようで、各員衣服をレイヤーすることを覚えたようであった。この時期、行動中は汗ばむ位だが、どうしても歩き出しと休憩中が寒い。速乾生地のアンダーシャツと、フリース素材のインナーにウインドブレーカーという組み合わせは黄金パターンである。特に、脱いだ後もコンパクトにまとまって邪魔にならないウインドブレーカーは、長い時期使える便利物だ。
ところが、メンバーの多くがゴアテックスに代表される透湿防水生地を使用した高級ウエアを購入するなか、MA-1を毎度着てくる者がいる。竹上である。彼は夏場以外は、ほぼ同じ装いで参加する。ズボンに至ってはいつも一緒であった。「素人は経験と技術の不足を、最新の道具で補え」という井川隊長の言葉に逆行するようなラフスタイル。時にサンダルで山道を歩くといういい加減さが、彼の醍醐味である。他のメンバーから“近所のコンビニへ買い物に行くようだ”と表現されるのも無理からぬところか。そういった意見に対し竹上は、
「えー。でも、MA-1って最高っすよ。暖かいし、風防ぐし、楽チンなのが一番っすよ
」
まあ確かに、こまめなメンテナンスを要求される最新素材は楽チンではない。機能を維持するためにはそこそこお金を掛けなければならず、正直手間隙かかるのだ。MA-1だって本来の機能を維持するためにはそれなりにメンテナンスが必要であろうが、竹上自身がそれを自覚していない以上、メンテフリーなのである。他のメンバーだって、たまに防水スプレーを掛けておけば良いと思っているだろう。ともかく、彼のポリシーを貫く姿勢はなんだか力強く感じる。きっとこれからも、そのスタイルを押し通し続けるのであろう。
いそいそと脱いだ衣服を収納し、一行は再び晩秋の山路を歩き出した。
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