八合目を過ぎ、九合目を向える頃には、営業している山小屋も無く、自身のヘッドライトだけが道を照らしていた。雲が完全に月を隠し、夜闇の濃さが増していく。
ここまで来たら、そんなに急ぐ必用はないので、バテ気味の二人にペースを合わせて進む。すっかり余裕が出てきた斉藤は、それまで自粛していた煙草に火をつける。
「はあー、うまい!」
肺一杯に煙を吸い込み、悠々と吐き出す斉藤。それに引き換え、鯨岡と臼井は地面にヘタッと座り込んでいた。
「どうした、諸君。あと少しだ。元気出していこーぜ!」
という声にも、面倒臭そうに反応するだけだった。
山頂がだいぶ間近に見える。気温もかなり下がってきており、途中、焚き火で暖をとる一団に出会った。その気持ちはわからないではないが、国立公園内での焚き火は禁止されているはずだ。そんなことを考えながら、その場を通り過ぎた。
ふいに大きな鳥居が姿を現した。夜間の登頂ということで、風景がよく見えなかった。したがって、前触れも無く突然頂上が目の前に出現したといった雰囲気に包まれた。
「よーし、ついたぞ!」
という感慨もそこそこに、撮影ポイントを探す。山頂にはすでに大勢の登山者が到着しており、ツェルトを張ったり、アウターシェルを装着した寝袋に包まったりして日の出を待っている。それにしても寒い。北風が強く吹きつけ、体感気温をかなり下げている。こんな風に何時間も吹きつけられるのは、ご免こうむりたい。三人は、風を避けつつ東に向いている場所を探し回った。
20分ほど徘徊して、ようやく良い場所を見つけた。ように思えたのだが、何だか少し臭うような。目の前に見える小屋はトイレなのか?暗いのでよくわからない。それはともかく、他には誰も居ないし、岩壁を背にして正面が東を向いているので、ご来光の写真を撮るには最適なポジションだった。
崖の縁から下を覗くと、登山道が無数の青白い光に埋め尽くされていた。
「富山名物ホタルイカみたいだな」
「うわっ、すげー渋滞。あんなところ歩けねーよ」
「五合目から、ずっとつながってるんじゃないか?」
皆口々にその光景の感想を述べる。無数の光は揺らめきながら、少しずつ山頂目がけて動いている。あれだけの人数が山頂に到着したら、そこらじゅう人だらけになることだろう。たった一時間ではあったが、早めの行動が効を奏したようだった。時刻は午前3時半少し前。途中でたっぷりと休憩を挟みながら、6時間あまりでの登頂というのは、標準時間6時間弱とされるこのルートにおいて、かなりハイペースで上ったことになるだろう。
この記事にトラックバックする