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Smoke and Fools

We want to climb the highest place... 『S.N.F.』の輝かしくも、まぬけな記録と、徒然記。

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第一次奥鬼怒遠征 その5

8月に入って、現地鬼怒川の上流域は雨が降り続けていた。

「大丈夫かな、川、増水してるんじゃないの?」

今田が斉藤に言った。

「問題無い。大丈夫ですよー。もしもの時の為にザイルを用意してるし、対岸には俺か、隆が張りにいくから、お父さん達は一切心配無用です。大船に乗ったつもりで、ドーンと構えていれば安心ですから。」

斉藤の言葉には勿論根拠は無い。だが、フィジカル的にも世間的にも身軽な斉藤と江藤(隆)は、チームに危機が迫った時には、率先してその中に飛び込まなくてはならないという覚悟を決めていた。とはいえ、熊と戦うつもりは無いし(どうやらたまに出るらしい)、崖を攀じ登り降りするつもりはさらさら無い。ファイト一発とは完全に無縁なのである。

出発まであと一週間となり、荷物の準備も着々と進んでいく。生命線となる水は、思案した結果、一人6ℓ携行することとなった。水を減らせば重量は簡単に軽くなるが、不安は多分に残る。何せ夏の盛りである。各自に割り振った共同装備プラス、個人装備を加味しながら、それでも嗜好品を持って行きたいのが心情というもの。リスクを冒して水を減らす者、重量増を覚悟して追加する者。チームのメンバーは各自の判断のもと、それぞれのパッキングを進めていく。各自のザックから何が飛び出すかは、あとのお楽しみである。

出発の日が近づくにつれ、天候が安定してきた。気象データを見ると、現地では毎日雷雨が発生しているようだったので、野営地には昼過ぎまでには到着しているべきであろう。雨の中テントを設営するのは何とも辛い。そこから逆算していくと、こちらを3時位に出発しなければ間に合わない。前日に休みを取っているメンバーは問題ないが、仕事のメンバーには残業禁止令が通達された。遊びに遅刻は厳禁である。実際のところ、業務時間内に収めるのも仕事のうちであり、無為に時間を掛けても良い成果がでることはないだろう。

我々が向かう先には、どのような冒険が待ち受けているのか?高鳴る鼓動、募る期待を胸に、いよいよ運命の当日を迎える!とはいえ、間抜けな七人の無謀な挑戦に、一切の美談はない。長い前置きを終え、ついに明かされる大人の遠足の実態は、次回よりスタートする。

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第一次奥鬼怒遠征 その4

7月に入り、そろそろ計画も最終調整の段階に入った。

各メンバーの都合に合わせ、決行日を8月8日、9日に決定した。お盆休み前で、道路も空いていそうだし、比較的天候も安定しているだろうし、平日に休みを取れる職場のおかげで、カレンダー通りに計画を組まなくても良かったという理由も含めて。

斉藤は、今回の企画を「大人の遠足」と題し、大人の遠足委員会を発足させる(この大人の遠足委員会は、その後「S.N.F.」という名称に変更され、現在に至る)。さらに、委員会の活動として遠足のしおり作成に着手した。完成した遠足のしおりはA5サイズで、20ページ以上にも及ぶ本格的なものとなった。内容については、色々問題があるので詳細は省くが、決意表明から、持ち物、服装、日程、隊規、地図、詩や歌まで入った熱の入れよう。

本文から一部抜粋すると、

「…今回の行程に全く危険が無いとは言い切れません。しかしそのリスクは、例えば自転車に乗っていて交通事故に遭遇するようなものだと考えて下さい。みなさんは、事故に遭うからと言って自転車に乗らない、ということは無いはずです。都市部の○○○○にいても○○する危険があることを考えれば、当遠足がそれ程危険なものであるとは断じられないでしょう…」

斉藤の性格がよく現れた名文である(○部分は、原文の問題箇所を伏せさせていただきました)。

さらに巻末には袋とじを付け、強力な毒舌を座談会風に展開するなど、なかなか読み応えのあるしおりを、斉藤は二晩で完成させた。斉藤曰く「文章を書くにはインスピレーションが必要で、それが自分に降りてくるまでは何もしない。昼夜を問わず、“来た!”とイメージした瞬間から一気に書き出し、集中しているので疲れも感じない」そうで、会社から帰宅後、寝ずに作成したという。

このしおりは、メンバーに好評だった。また、会社で配付したため、メンバー以外の者の目にも触れることとなり、これまた好評を博した。周囲の評価にすっかり気分を良くした斉藤であったが、袋とじの内容だけは他人の目に触れさせないように注意を払う必要があった。それもそのはず、書いてある内容が痛烈な会社批判であったため、うっかり社内で落としてしまうようなことになれば、斉藤の立場が非常に危うくなる。さいわいにして、斉藤はその後も会社をクビになることはなかった。

計画を進めていくと、今回の持ち物が20kg近くになることがわかった。メンバーの誰一人として登山やバックパッカーの経験がなく、これだけの荷物を背負い、山道を歩くというのは全く未知の領域だった。一番重量がかさむのは水であった。しかし、夏場というコンディションを考えれば減らすわけにもいかない。多少パッキングに詳しい井川と斉藤が、他のメンバーにアドバイスをし、なんとか重量の軽減に励むしかなかった。

それにしても重量物を背負うことに不慣れな彼らである。不安は常につきまとう。そこで、今田、斉藤、江藤(利)の三人は、仕事が終わった後にトレーニングをすることになった。今田宅に集まり、それぞれが持ち寄ったザックのなかに、ミネラルウオーターのペットボトルを数本入れる。本番時の重量よりははるかに軽いが、まずは物を背負うことになれるためである。その状態で、近所の公園のアスレチックコースを歩き回った。深夜2時近い真夜中に、ザックを背負った男が三人連れ立って公園を歩き回る姿は、傍から見ると何とも気味が悪い。近隣の家から警察に通報されてもおかしくはない。だが、当人達は真剣である。皆汗だくになりながら、階段を上り、斜面を下る。途中、犬を散歩させている住民に出くわすと、驚いた表情と素振りを見せていた。まあ、無理もないことであろう。

かくして、各自準備に胸を躍らせつつ、8月8日を迎えるのであった。

第一次奥鬼怒遠征 その3

その日から、江藤(利)、今田、斉藤の三人は、遠征計画を実現させるべく情報収集を開始した。
程なくしていくつかのWebページを発見した。どのページを見ても、最近の状況は書かれていなかったが、大体の雰囲気は掴める。

道程は、車道から概ね2時間といったところ。湯沢川に沿うように作られた道を進み、途中何度か川を渡る。
川には橋が架けられているとのことだったが、増水などの影響でいくつか流されてしまったらしい。その後復旧したという情報はない。
やはり、川を渡渉することは避けられないようだった。

この地域には温泉が随所で湧き出ており、それが湯沢川に流れ込んでいる(川の名前の由来は、そこから来ているらしい)。
ということは、川の水は沸かしても使えない。煮炊き、飲用の水は、全て自力で運ぶしかないようだった。
遠征は夏場に実行する予定なので、かなり大量に携行しなければならない。山歩き初心者にとって不安材料である。

目指す温泉は、湯沢川が屈曲し、川岸が広くなった部分に湧き出ている。
その名も広河原というその地点には、既に先達が湯船をこしらえ、ブルーシートを敷き詰めてある。
我々が新たに湯船を作る必要はなさそうで、せいぜい既存のものを修復をする位で済みそうだった。

広河原からさらに上流部へ進むと、天然記念物「湯沢墳泉塔」と呼ばれる名物がある。
硫黄などが長い年月をかけて、たけのこのように地面から突き出して生えている。大きさは1mほどあるようだ。
この墳泉塔がある場所には滝があり、滝壺に温泉が流れ込んで、もうもうと湯気が上がっている。
流れ込んでいる温泉の温度は90℃以上と高いが、滝の水量や水温の関係で、滝壺は入浴に適さないとのことだった。

着実に情報が集まり始めると、三人の計画を聞きつける者が出てきた。
あれだけ会社のパソコンで情報検索をしていれば、彼らが何かを企んでいるということは誰にだってわかる。
さらに江藤(利)が、仕事の合間を見つけては、しきりに同僚へこの計画についての話をしていた。
特に井川係長は、この計画が大いに気に入った様子で、彼も参加することとなった。

井川は細身の筋肉質タイプで、常にトレーニングを欠かさないスポーツマン。アウトドアにも造詣が深く、酒が好き。
会社での立場を度外視しても、当計画のチームリーダーは彼しかいない、と誰からも言わしめる、絶対的な力を有していた。
ちなみに、今田の次に年長で、三人の子持ち。週末は少年野球の指導に勤しむ、良い父親でもある。

また、井川に続いて竹上、薮内、江藤(隆)の三人が参加を表明した。
竹上はかなり細身の体格で、運動をやっている用には見えない感じ。いかにも最近の若者らしい発言が、「山歩き、本当に大丈夫?」と思わせる。
一児の父でもある。

薮内は、中肉中背の標準体型。彼も運動をしているという話は聞かない。物静かで、休憩中には本を読み、少ない口数でたまに毒を吐く。
大学では情報処理系の研究をしていたらしく、全く畑違いのこの会社に何故入ったのかは謎である。一児の父。

江藤(隆)は、長身、細身の筋肉質で、テニス、サーフィンを始め様々なスポーツを嗜む純血スポーツマンタイプ。
年齢は一番若く独り身であるが、斉藤(今田、井川に続く年長者)と同じく「好きで独身でいる」のかどうかは、本人に聞いてみないとわからない。

メンバーが固まりつつあるなかで、その構成を見た斉藤が言う。

「隆と俺を除いて、みんな妻帯者で、子持ちじゃないか。結婚生活って、そんなにストレスが溜まるのか?
  この計画はお気楽キャンプと違って、多少なりとも危険を伴うんだぞ。君たちの家庭は、そんなところに世帯主を送り出して大丈夫なの?」

井川がそれに答えて、

「なに、嫁には俺のやることに文句を言わせねーよ。お前、誰のおかげでメシ食ってると思ってんだってね。
  山に登って、キャンプして、温泉に入ってくる。それ以外に余計なことは言わないし、嫁もそれならまあ大丈夫かと思うんじゃないの?」

なるほど、さすが隊長の発言である。力強い。まあ、他のメンバーの家庭が全て同じであるとは思えないが。
実際、今田、江藤(利)、薮内の家庭では、今回の計画の承認を得るために、家族サービスに励み、ポイント稼ぎをしなければならなかった。
その後、そのポイントは「山行きマイル」と呼ばれることとなる。数ヶ月から半年以上をかけてマイルを貯め、山行きと交換するシステムが確立するのであった。

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男性
誕生日:
1974/07/02
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「遊ぶのに忙しくって、
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 いつかそんなことを言ってみたい…

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