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Smoke and Fools

We want to climb the highest place... 『S.N.F.』の輝かしくも、まぬけな記録と、徒然記。

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第一次奥鬼怒遠征 その11

ところで一行が広河原に到着した時、中量ザックが一つ、ビニールシートを掛けて置いてあった。誰か先客が居るのであろうが、当人の姿は見えない。駐車場を出発してからこのかた、メンバー以外の人間には一切出くわさなかった。森の中で鹿が数頭、木漏れ日を受けた背を金色に煌かせながら走り抜けていくのを目撃したのが、大型哺乳類と唯一遭遇した場面であった。この装備品の持ち主はどんな人なのか気になるところであったが、少なくとも一行の面々よりはまともであろうから、そういう心配をするのは相手にとって失礼であろう。

虻と格闘しながらの温泉入浴を済ませ、食事の準備をしているころ、初老の男性が野営地背面の山から下りてきた。彼が下りてきた道は湯沢噴泉塔へと続いているようだった。

「こんにちは」

とお互いに挨拶を交わし、様子をうかがう。初老の男性はどう見ても普通のおじさんである。おじさんの目から一行がどのように映っていたのかは想像するしかないのだが、おかしな集団であると思われていたことは間違いないだろう。おじさんは彼らよりもずいぶん前に広河原に到着し、温泉の湯船を整備した後に噴泉塔を巡ってきたのだという。なるほど、湯船のブルーシートがきれいに敷かれていたのはおじさんのお陰だったのである。そんな会話を交わした後おじさんは、自らが手直しをした温泉に浸かり、食事の準備に取り掛かった。ザックに掛けられたシートを外し、中からコッヘルとシングルバーナーを取り出すと、手馴れた感じで黙々とインスタントラーメンを作り始める。一方、怒声とわめき声が交差しながらカレーライスを作っている彼ら。あまりにも対象的な光景。

「にぎやかで、楽しそうですね。ほぉ、カレーですか、旨そうですね」

おじさんが放ったその言葉には「やかましいなあ。静かにせんか。お前らキャンプ場と勘違いするんじゃないぞ」という意味が含まれていたのであろうが、そんなことはお構いなしである。

「カレー、旨そうでしょう?おじさんも如何ですか?」

という空気を読まない間抜けな発言に対して、おじさんは丁重に断りを入れ、一人つましくラーメンをすする。一行とおじさんのどちらが正しいのかと言えば、異論無くおじさんだろう。だが、彼らには彼らの楽しみ方というものがある。別段反社会的な行為をしている訳ではないので、文句を言われる筋合いは無いというのが井川と斉藤の共通意見であった。

おじさんは食事を済ませると、そそくさと荷物をまとめて帰路についた。一行はその背中を見送ると、食事の後片付けを済ませ、まったりとした雰囲気に身を委ねていた。今田は自慢の鉈を振るい、流木を切って薪を作る。夜に備えてかまどを作る者、泥々になった衣服を川で洗濯する者、腰を据えてバーボン、ウイスキーを飲み始める者…思い思いにゆったりとした時を過ごす。そのうちに疲れが一行を包み始め、夕方まで一眠りすることとなった。今田と江藤(利)はかまどで火を焚きながらしばらく談笑していたが、その他のメンバーは夫々のテントに納まり、すぐに寝息を立て始めた。

2時間程経過した頃、突如雷鳴と共に大粒の雨が降り出した。既に今田と江藤(利)はテントで休んでおり、外に出ている者は誰もいない。全員、テントを雨粒が叩く音と雷鳴に目を覚ましたが、疲労に支配された体を起こそうとする者はなかった。

江藤(利)は苦手な雷に怯え、テントの中で寝袋に包まりながら夕立が通り過ぎるのを待ち望んでいた。「どうか雷が俺のテントに落ちませんように」と祈るような気持ちで震えていたその時、突如大きな物音と共にテントの骨が軋み、ガサガサと揺さぶられた。突然の出来事に何が起きたのかわからず、半ばパニックを起こした江藤(利)は、恐怖のあまり声も出ない。ガサガサ、バサバサとなおも振動を続けるテントのジッパーが外から乱暴に開けられた。

「おい、利。温泉に浸かりに行こう。早く出て来い!」

激しい夕立が立ち込める中、合羽を着た井川の姿が戸口に浮かび上がる。ジッパーが開けられた瞬間、自らの最期を覚悟した江藤(利)は、見知った顔が現れた安堵感3%に、それでも脅威は遠ざかっていないという恐怖感97%といった表情を見せ、

「ちょっと、浩平さん。勘弁して下さいよー!俺マジで死ぬかと思いましたよ!!」

と言いながら寝袋に包まり身を固めて、井川の顔を窺い見る。

「なんだ利、お前ビビッてるのか?ダッセーな!なんだその顔!!」

江藤(利)の恐怖に歪んだその顔を見ながら、おかしくてしょうがないといった感じで井川が罵る。

「そりゃビビるでしょ!熊が出た、熊に殺されるー!って、マジで思ってちびりそうだったんですよ!」
「おい、そんなことはともかく、温泉に行こう。他の奴らにも声を掛けたんだが、誰も起きて来ないんだよ。一人じゃつまらんから、お前来い!」
「温泉ですか!?だってすごい雨降ってるじゃないですか?」
「どうせ温泉に入っても濡れるんだから関係ねーだろ。おい、早くしろ!」
「俺、雷怖いから絶対外に出ませんよ。入るんだったら、浩平さん一人で行ってきて下さいよ」

これ以上説得しても埒が開かないと悟った井川は、その場を離れて一人温泉へと向かった。江藤(利)は、変に高ぶった神経を何とか収めようと、再び寝袋に包まる。命の危険が去った安堵感から、ようやく眠りについた。

すっかり熟睡していた斉藤が目を覚ました頃、雨はすっかり上がり、辺りは暗闇が支配していた。口の中に残る酒の匂いをミネラルウオーターで流し込み、テントから這い出してきた。気温が一気に下がり、とてもTシャツではいられない。ザックからパーカーを引っ張り出して着込むと、既に起きていた他のメンバーのもとへと向かった。向かった先では、井川を中心に火を起こそうとしているところであった。今田が切り出した薪は、大雨に降られてすっかり湿ってしまい、ちょっとやそっとでは着火しない。周囲を探索してどうにか乾いている焚きつけを探すも、この一帯にはそういったものは無いようだった。周囲が暗いとはいえ、夕食にはまだ早かったし、かまどの火が使えなくてもシングルバーナーでこと足りる。火起こしは井川たちに任せて、斉藤は温泉に浸かることにした。

薮内と共にランタンを持ち暗闇を進む。温泉に近づくにつれ、立ち上る湯気が眼前に広がって幻想的な光景を醸し出していた。あれほど飛び交っていた虻の大群は、暗闇の訪れと共に森の中へ帰っていったらしい。二人は安心して温泉へと体を滑り込ませる。雨水が大量に入り込んだのか、だいぶ温くなっていたので、川の水を引き込む為の塩化ビニール製のハーフパイプを外に出す。徐々に湯温が上がり、心地よく体を温めていった。周囲の森に山頂からのそよ風が吹く度に、木ずれの音と共に、木々の葉に溜まった雨水が滴となって落下して下の枝葉を打つ音が鳴り響く。立ち上る湯けむりはランタンの明かりに照らされて、中空をぼんやりと漂う。真上を見上げると、今まで見たことが無いような数の星々が、木々の合間に開いた空間を美しく彩る。

「最高だね、薮さん!こりゃー最高に気持ちがいいよ!」
「そうやね~。家族は連れてこれへんけど、最高に気持ちえーわ。辛い思いをしたご褒美やね」
「そうだよ、ただ辛いだけだったら変態だよ。これがあるから来たんだ。今は虻も飛んでいないし、この温泉は夜に入るものだったんだね」
「落ちてきそうな星空が見れるこの温泉には、歩いてしか来られないというところに価値があるなぁ」

男たちは静かに語る。その極上空間に酔いしれ、いつしか体に溜まった疲れが飛んでいってしまったような感覚に陥っていた。今日の山歩きのことや、仕事上のあんなことや、家庭内のこんなことまですっかりと。

そのころ井川は苦戦しながらも、ようやく湿った薪に火をつけて安定させることに成功した。全員が揃うと、夕飯の支度に取り掛かる。飯を炊き、豚汁をこしらえる。さらに、斉藤が持ち寄った秘密の缶詰を湯煎して開封した。出所は秘密ながら、行動食として味や栄養バランスに配慮した一品である。今田が仕掛けていた温泉卵も取り出されたのだが、源泉の温度が低かったらしく、半熟にすらなっていない。半野生の鶏の有精卵という極上素材なので、味は申し分ないのだが、ちょっと温い生卵といった塩梅がその風味を幾分そこなってしまった形である。それらの用意した食料を瞬く間に平らげて、一行は焚き火を囲んで車座となる。水分を多く含んだ薪が盛んに爆ぜて、その度に火の粉が舞い上がる。揺らめく炎を見ているだけで、つまみはいらないとでも言うようにバーボンをガブ飲みする斉藤。井川もスキットルからウイスキーをチビリと飲む。他の面々も夫々飲み物を手にして、今日あった出来事を振り返りながら語り続ける。こうして静かに夜は更けていく。森の木々や夜空の星々は、そんな彼らを穏やかに包み込んでいた。
炎の揺らめきが幻想的。よるもやっぱっりシャウエンセン。










気温が下がって冷えた体に豚汁がうれしい。極上温泉を愉しむ。










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第一次奥鬼怒遠征 その10

野営地に着いた途端、荷物やテントの設営、衣服やら何やらを投げ出して真っ先に温泉に飛び込んだ者がいた。江藤(利)である。先ほどまであんなにヘバッていたのに、一体どこからそんな力が出ているのか。山歩きと荷物から開放されたことが余程うれしかったのであろう。江藤(利)が温泉に浸かって嬌声を上げているころ、薮内は濡れずに川を渡れる場所探しを諦め、靴を脱いで渡渉し、ようやく野営地へ到着した。

「薮さん、おつかれー!あ、靴脱いだんだ。ここら辺、渡れそうな場所なさそうだよね」
「そうなんや、上流の方へ少し行ってみたんやけど、もうあかんと思って靴脱いで渡ったわ」
(※ 薮内は山に来ると関西弁で喋るのだが、筆者の不心得によりインチキな表現となってしまうことをあらかじめお断りしておく)
入浴一番乗り。これにて全員到着。
湯沢川は上流より曲がりくねりながら流れてきて、野営地を前に大きく右へと湾曲している。気になる程ではないが、若干硫黄臭がするその水は、標高1000mを超えている河川にしては冷たくない。温泉成分がかなり流れ込んでいるようで、川底の石には苔とも湯の花のもつかない付着物に覆われ、掬い上げた水にも何やら浮遊物が混じる。魚は棲んでいないようで、ボウフラや川虫等も見かけない。従って、この時期の野外活動で悩まされる蚊は、皆無といっていいほど見られなかった。そのかわり、蚊よりも強力な敵が彼らに襲い掛かった。温泉の臭気に誘われているのか、おびただしい数の虻が飛び交っている。特に湯元と湯船やその周辺は大変なことになっている。テントを設営し終わり、汗まみれの衣服を脱ぎ捨てて温泉へと向かった彼らに、虻の大群が一斉に飛び掛る。話は前後するが、真っ先に温泉に入った江藤(利)が、これもまた真っ先に虻の犠牲者となった。

「うわっ、何だこの虫!痛っ、刺された!痛、痛っ!尻を刺された!」

体長約2cmの緑褐色ボディに濃緑色で光沢のある大きな複眼。ブーンという少し野太い羽音を響かせて、広河原虻航空隊は江藤(利)を目標に定めて空襲を開始したのだ。集中攻撃を浴びた江藤(利)は必死の反撃を試みるものの、多勢に無勢である。前方の虻を追い払ったと思えば背中を刺され、背中を気にすれば前方に回りこまれる。気を許すと頭に取り付かれ、水面上に露出している部分全てを防御しなければならない。奮戦もむなしく、魚雷3発と爆弾5発の直撃を受けて撃沈といった様相で江藤(利)は逃げ出したのであった。

そんな話を聞いていた他のメンバーは、単独行動を避け、複数人数での入浴を試みたのである。確かに攻撃は分散され、お互いの死角をカバーし合えるのだが、とても落ち着いて浸かっていられない。少しでも手を休めるとたちまち露出部分を刺される。仕方なく、絞ったタオルを頭の上でグルグル回しながらの入浴となった。なんだか疲れる温泉である。もっと素敵なものを想像していたのだが。

温泉に浸かってさっぱり(?)したところで、昼食となった。携行品に制限がある山でも食事に妥協をしないという井川隊長の意向で、真鍮製の鍋と大量の食材を持ち込んでいた一行の昼食は、キャンプメニューの王道カレーライスである。米は水を節約するため無洗米で、飯盒に入れてすぐさまシングルバーナーの火にかけた。野菜の下ごしらえを皆で分担し、竹上が運んできた鍋をいよいよ火にかける。朝からの重労働で全員腹ペコだった。玉ねぎを飴色になるまでじっくり弱火で炒めて、人参とじゃがいも、豚肉を投入…なんて悠長なことはやってられない。材料は全て鍋に投じられ、水が注がれていく。世界一いい加減なカレー作りであろう。そのあと入念にアクを取るところが、大人の遠足委員会流である。具材を煮込んでいるさなか、空腹に耐えかねた井川と竹上がシャウエッセンを茹で始めた。シングルバーナーに据えられたコッヘルの水は瞬く間に沸騰し、次々とシャウエッセンが投入される。2、3分程して茹で上がると、各自手にビールを持ち、プリプリのソーセージに一斉に群がる。

アツアツのソーセージをハフハフ。「かんぱーい!かぁーっ、ビール最高!」
「シャウエッセン、超うめー!」
「生きててよかったー!」

口々に歓声が沸き起こる。ソーセージ如きでこれほど歓喜の声を上げたのは、この場にいた誰の人生においても始めてのことだったであろう。「俺、シャウエッセンさえ食えれば、あとの食事は何でもいいですよ」と竹上は出発前に語っていた。皆その発言を怪訝に思っていたのだが、この場でその考えを改めなければなるまい。食料全てがシャウエッセンというのは、やはりどうかと思うのだが。

とろとろに煮込まれた極旨カレー。野菜が柔らかくなり、ルーが投入された鍋はしばらく煮込まれ、ようやくカレーが完成した。飯盒のご飯は適度に蒸らされ、各自の皿やコッヘルによそわれていく。そして、ご飯を手にした彼らはカレーの鍋の前に並ぶ。あんなに適当な作り方で、果たして味は大丈夫なのかと心配されたが、一匙口に運ぶなりその懸念は払拭され、豊かなカレーの風味と程よい辛さがコップの水に足らしたインクのように一気に広がった。

「う、旨い!最高じゃない、このカレー!」
「社員食堂とは比べ物にならない!」
「おい、あんなのと比べるなよ。あそこは、カレー風のドロッとした褐色の液体をご飯の上にかけているだけの代物だぞ」
「もう食べ終わっちゃったよ。おかわりー!」

シャウエッセンの時以上の歓声を上げながら、10人前のカレーとご飯はあっという間に平らげられた。程よいアルコールの酔いに包まれながら、彼ら7人は人生至福の時を謳歌しているのであった。
あぢっ、あぢっ。みんなでモグモグ。











第一次奥鬼怒遠征 その9

幾度か登り下りを繰り返した後、道は川にぶつかった。事前の情報通り、木製の橋が架かっていた。丸太を数本まとめたその橋は、幅が約60cmで長さは6~8m程。川幅が狭まった浅瀬に露出している岩の上を渡し、両岸から張られたワイヤーで固定している。水量が多い時期だと水中に没してしまいそうだが、今日は完全に露出しており、水に濡れる心配はないだろう。人間ばかりではなく動物も通り道にしているようで、獣の毛や糞が落ちていた。

「なに、これ?人糞じゃないよね。鹿でもないし、もしかして熊?」

隊員の一部い同様が走った。

「やだなあ、熊じゃないでしょ?橋を渡っている最中に突然おなかが痛くなったんじゃないの?それか犬!」

という見解を述べる斉藤に、

「人だとしたら、この毛は何だ?」
「犬?野犬か!熊よりタチが悪くねえ?ヤツら人間を恐れないぞ」
「いや、熊だよ、熊!こえー!!」

と口々に不安を述べる隊員たち。人里からどんどん離れていくにつれ、若干ナーバスになってきているようだ。

「もー心配しすぎだっつーの。わかった、きっとこれはプーさんのだよ。もし出会ったら、はちみつくれるかもね」
「そうか、プーさんなら安心だね」
「相手は着ぐるみみたいなものだし、俺らでも十分に戦えるな」

熊という単語をファンシーな言葉で置き換え、どうやら動揺は収まったようだった。

二箇所目の橋は、中央部分が破壊されて、両岸に押しやられていた。川幅が狭くなっているとはいえ、とても荷物を背負った状態で飛び越えられるようなものではない。各自覚悟を決め、渡渉の準備を始めた。薮内と江藤(隆)は何とか濡れずに渡れる箇所を探す。ゴアテックス製の靴を履いている井川は、浅瀬を探して渡り始める。今田は靴を脱ぎ、ズボンを膝上まで捲り上げて渡渉開始。斉藤は持ち込んでいたマリンブーツに履き替え、同じようにズボンを捲くって進む。そんな中で江藤(利)と竹上は何の躊躇もなく、川の中へ飛び込んだ。ザブンと水しぶきを上げ、水流をものともせず川を渡っていく二人。

川面を木々が鬱蒼と覆いかぶさる。「温泉が流れ込んでいるせいか、水は思っていたほど冷たくないね」
「そうっすね!なんだか、ちょうどいい感じですよ」

呑気な会話をしながら対岸を目指す江藤(利)と竹上だったが、川底の石には苔が付着しており、大変滑りやすい。水量は膝下くらいだが流速はかなり早い。一度転倒してしまうとずぶ濡れになるばかりか、下流へと流されてしまう可能性がある。ストックを使って慎重に川底の状態を確認しながら渡る他のメンバーとは対象的に、彼らはリスクを意に介さず突き進む。

「転んで流されたら、そのうち人里に辿り着けますよ。山道を歩くより楽チンじゃないですか」

と声を掛ける斉藤であったが、この言葉がその後現実に置きることは誰も想像していなかった。

橋は中央で折れ、向こう岸に流されている。これ以降、まともに川に架かっている橋はなかった。増水時に流されたり破壊されたまま放置されているようだった。

「これは某国のエージェントの破壊活動によるものだ。間違いない!」
「こんな山奥に?そんな訳ねーじゃん」
「いやいや、都市部でやったらすぐにバレちゃうでしょ?こうやって、一見地味だけど、確実に地域社会のインフラを破壊し、日本経済を圧迫することが目的なのだよ」
「むむ、恐るべし某国の戦略。こんな人里離れた場所にも潜入していたのか!こりゃ、自宅のトイレに盗聴機が仕掛けてあると疑ったほうがいいな」

痛々しい。アホな会話を続けながら、壊れた橋を渡る一行。その時、後方で水しぶきが上がった。江藤(利)が壊れた橋の先端から、その先にある橋の破片に飛び移れず、川に落ちたのである。長時間の行動で体力的に限界が近づいていた彼は、四つん這いになって丸太の上に這い上がった。

「利、大丈夫か!おいずぶ濡れじゃないか!」

一部始終を見ていた今田は彼の姿に大爆笑。

「隊長!隊長!利さんが川に落ちました!」
「何、戦死か!とうとう戦死者が出たか!」

嬉々として歩み寄る井川に、

「勘弁してくださいよ、まだ生きてますよ~」

と答える江藤(利)の声は弱々しく、本人かなり参っている様子だった。あまりにも疲労が目立つ江藤(利)の荷物は、この後隊長命令で解体され、他の隊員が一部を分担することとなった。

時刻は12時を回り、歩き始めてから3時間以上が経過していた。あまり早くはないペースだったが、行程はそろそろ最終盤に掛かる頃合だった。徐々に温泉特有の硫黄臭が、辺りの空気に混ざり始めたことも、ゴールが近いことを予見させていた。深い森を抜け、背丈ほどもある草むらを過ぎると、またもや川原が見えてきた。斉藤は周囲の様子と地形図を見比べ、ネットで見た写真を思い出しながら、対岸が目的地「広河原」であると断定した。

「みんな、川の対岸がゴールだよ!あそこに、ブルーシートが見えるでしょ?まだ誰も来ていないみたいだ!」

と斉藤が言うや否や、隊員たちは一斉に駆け出した。川には橋が架かっていなかったが、そんなことはものともせずに突進する者。慎重に回り道をする者。各自の個性を滲ませながら、いよいよ本日の終着点へと到着したのであった。

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koenigs tiger
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51
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男性
誕生日:
1974/07/02
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自由業
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海、山、写真、音楽、etc...
自己紹介:
「遊ぶのに忙しくって、
        仕事をしている暇が無い」

 いつかそんなことを言ってみたい…

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